+++ 鳥はどこへ行く +++

 −4−

 「高校に入って、ずっと帰りが遅いじゃん?それ、きつくないの?」

 私はちょっと返事に悩んだ。剣道の名門校と言われるところに進んで

毎日毎日剣道漬け。正直きつくないと言えば嘘になる。

 けれど私はその時、なぜか嘘をあえてつきたい気がした。

 「そんなにきつくないよ」

 「なんで?」

 久しぶりの‘なんで’攻撃が出た。

 「なんでかな。だって剣道好きだもん」

 「ふうーん」

 小鳥はそのまま、納得したのかしていないのか複雑な表情で、前を

再びじっと見ていた。

 

 駅についた。人・人・人。黒山の人だかり。浴衣姿の女性も、大勢いた。

 「うわあ、すごい人!ねえお姉ちゃん、私たちも浴衣着てくればよかったね」

 小鳥の驚きの言葉に笑って頷いて、私は切符を買うために小鳥の手を

握りなおして販売機に並んだ。

 先ほどからの暑い空気が、さらにムッと蒸せかえるような人いきれに変わっ

て、私は思わず眩暈がしそうだった。

 その時、ちょっと前を並ぶ背の高い姿を見つけて、私は小声で呼びかけた。

 「正道。正道」

 きょろきょろと辺りを見回した正道は、クルっと振りかえって私を見るとニッ

と笑った。

 「おお、鳥姉妹」

 鳥姉妹?と、彼の周りにいた友達らしい男数人に聞かれ、‘あいつは小鳩で

横にいるのが妹の小鳥って言うんだ。だから、鳥姉妹’と、妙に丁寧に説明

している。

 それでそれで?という好奇心丸だしの男たちの質問に、‘俺と同じ剣道部

の子。’とボソっと言っている声が聞こえた。

 どうやら、彼らは違う高校のようだ、中学時代の同級生かなにかかな。

 そう考えていると、手をつないでいた小鳥がグイグイと引っ張った。

 「お姉ちゃん、前に進めるよ」

 「あ、ハイハイ」

 

 電車に乗りこむと、ぎゅうぎゅうという感じで身動き一つ取れなかった。

 「小鳥、大丈夫?」

 私は、他人の足を踏まないように気を付けながら小鳥の手をしっかり

握った。彼女は、思ったより楽しそうな顔をして、ウン大丈夫、と言った。

 「なんだか楽しいんだもん」

 そう付け加えるように、小学生らしいことを言った。

 その時、私の頭に急に激痛がした。

 「イタッ!」

 

     

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