+++ 鳥はどこへ行く +++
−2−
菅原先輩の涙を、あの時初めて見た。菅原先輩は、絶対に泣くような
人ではないと思っていた私は、ひどく驚いて、胸にグサリと何かが突き刺さった。
その「グサリ」は、1ヶ月近くたつ今でも傷が癒えていない。
私は菅原先輩がいたから、今の高校に進んだようなものだった。小学生
の頃から、先輩に憧れて憧れて、そして追いつこうとして必死だった。
私が1年生の時、菅原先輩と当時の男子主将が1対1で地稽古を組んだこと
があった。
その男子主将よりも一回りも小さい菅原先輩が、豪快な面を決めた時、私は
感動と嬉しさで、身震いしたのを覚えている。
そんな女子剣道部のエースで、学校一の有名人だった菅原先輩を、もしかして
私が泣かせてしまったのかもしれない・・・・・・。
などと考え込んでいると、カンカン、と踏みきりの音が聞こえた。あの音が聞こ
える頃は、本当は駅の駐輪場にいなくてはいけない。
慌てて時計を見ると、午前6時45分。私は驚いて、あと5分で来る電車に間に
合うために猛ダッシュで自転車を飛ばした。
「今日も小鳥は寝たの?」
お風呂から上がって食卓についた私は、当たりを見まわして母に聞いた。母は
キッチンで、私のためにカレーを温めなおしてくれている。
「さっきね。今日はプールで100mの試験があったみたい。それで疲れてるって」
「ふうん。なんか、あの子の顔どれぐらい見てないだろう」
母がカレーをついで持ってきてくれた。
「補習って、何時までやってんの?」
冷たい水をつぎながら、母が言う。私はぼうっとテレビを見つつ答えた。
「補習は、3時近くまで。それから部活」
「あんたって、そんなにハードな毎日を送ってるのね。お母さん感心するなあ」
「そっかな」
私は少し照れてスプーンを手にした。
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