+++ 鳥はどこへ行く +++

 −1−

 疲れた足を引きずって家の門を開ける。普段は楽に開くはずのこの扉が、

今日は妙に重い。玄関のドアは開いていた。

 「ただいま」

 独り言のように呟く。奥のリビングから、母が出てきた。

 「あらお帰り。今日も遅かったね」

 母が開けたリビングの扉からスーとした冷房の空気が流れてきて、疲れと

暑さに凝り固まった私の体が徐々にほぐれていくような気がした。

 「お。お帰り。お疲れさん」

 プロ野球の中継を見ながらビール片手にくつろいでいたらしい父は、私の

姿を見ると目をクリッとさせて、意味もなくビールグラスを目の高さに持ち上

げた。 

 「風呂入ってメシ食え。今日のメシはうまいぞ」

 私を元気づけようとしてくれているのか、父はわざとおどけて言った。母も

笑いながらお風呂場の電気をつけ、私に洗濯したばかりのバスタオルを手渡

した。

 「それにしても、ボロボロじゃないの。大丈夫?」

 「うん・・・・・・」

 私は答える気力もなく、キッチンのすぐ隣りにある脱衣場で制服を脱ぎ始めた。

 「イテ。イテテテテ」

 「どうしたの」

 母がやってきた。どうやら髪の毛が、セーラー服の脇ファスナーに引っかかった

らしい。

 「髪の毛、切ったら?防具つけたら暑いでしょ?」

 「うん・・・・・・」

 切る気もない私はナマ返事をしつつ、母がポニーテールの部分をファスナーから

外してくれるのをじっと待った。そしてふと思い出した。

 「小鳥は?もう寝たの?」

 「さっき寝たよ。あんたを待つって言ってたけど、限界が来たみたいで部屋に行った

わ」

 「そうか・・・・・・。小鳥と最近顔も会わせてないもんなあ」

 「あの子はあの子で、やれプールだやれ図書館だって、楽しんでるみたいよ、

夏休みを」

 「ふうん・・・・・・。いいね、若いって」

 「ほら、外れた。今度練習が休みになったら、髪の毛切りに行きなさい」

 練習が休みの日なんて、ないもん。そう呟いて、私は母が脱衣場から出ていくのを

横目で見ながら下着を脱ぎ始めた。

 

     

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