+++ ハイジがペーターに出会うとき +++

 

 −2−

 そんな彼女が、ある日私に驚くべき告白をしてきた。

 先輩、今日お知らせしたいことがあるんです、お昼ご飯、外でご一緒しませんか、

と神妙な顔で言うので、まだ午前中に片付けたい仕事が手元にあったけれど、

何事かと思いジャケットを着てバッグを持った。

 途中、幾つか同僚に伝言があったので5分ほど遅れて、彼女が待ついつものお店に

駆け込んだ。

 すると、店内の奥に彼女とスーツを着た見知らぬ男性が、身体を寄せ合って

仲よさそうに座っている。

 私の姿を認めた彼女が、「先輩こっちです!」と元気のいい声を出す。

 どうも・・・・・・、と男性に会釈して二人の前に座る。私の顔を見て、ニコリ、と笑った

その男性は、えくぼができるとても愛嬌のいい顔立で、気持ちのいい態度だった。

 「先輩、突然すみません、でも先輩に最初にお知らせしようと思っていたんです」

 そして二人で見詰め合って笑いあう。

 「ご紹介します、私のペーターです」

 あら・・・・・・、と私は、いつもの彼女の調子を、この彼はどう思っているのかまだ

分からないので、自分の娘が無作法なことをして、という感じで曖昧に返事をした。

けれどそんな心配は及ばなかった。その男性は、ニコッと満面の笑顔で私を見、

 「初めまして、ペーターです」

 と言った。

 「サトちゃんと付き合い始めのころからいつも、先輩のことは聞かされていました。

仕事もできて美人でって。彼女、先輩のことを姉のようにすごく慕ってるみたいで」

 「先輩だなんて呼ばないでいいですよ、鴨川です」

 面映いような気持ちで、前の2人を見た。2人とも、終始ニコニコしている。

 「よほど幸せなのね、すごい笑顔」

 おかしくなって、クスリとしながら目の前に置かれたランチに手をつけた。

 「そりゃあもう、幸せですよ、なんていったって、彼はペーターそのものなんですもの」

 「どこで出会ったの?」

 「友人の紹介です。乗り気じゃなかったんですけど、行ってみたら最高にタイプの人

がいて」

 「それが彼ね」

 彼女の恐るべきノロケに相槌を打ちながら、私は頭では冷静に目の前のペーターを

観察していた。一目では何を職業にしているのか分からない感じがしたので、デザート

のケーキが運ばれてきて打ち解けた雰囲気がした頃合を見計らって、それとはなしに

聞いてみた。

 「ところで、お仕事は何をしていらっしゃるんですか?」

 「不動産事務所で働いています」

 「まあ・・・・・・どちらの?」

 「アップルマップル不動産です」

 「大手ね。不動産業なら、10月の今は引越しシーズンでお忙しいでしょう?」

 「はい、1週間に1日休みがあればいいほうで。つい先日なんか・・・・・・」

 彼は仕事場で起こったお客さんとの様々なおもしろい話をしてみせた。隣では

サトちゃんが、その話に目を向いて笑ったり、心配したりしている。

 その2人を交互に見ながら、というよりおかずにして(先日と一緒である)食後の

コーヒーを飲んだ。

 

 彼と別れて、会社が入っているテナントビルのエレベーターを2人で待つ間、

彼女に話しかけた。

 「素敵な人じゃない」

 「そうでしょう?もう本当に、いい人なんですよ。理想どおりの人に出会えて、

先輩、私今、幸せなんです」

 こんなにうっとりした幸せそうな彼女の表情を見るのは初めてだ。私は心からこう言った。

 「ん。分かるわ。よかったわね」

 ビルに人が出入りするたびに大きめのドアからロビーに秋の風が吹きすさぶ。

 その冷たさにジャケットの襟を立てて、幸せそうな顔のサトちゃんを眺めた。

 

     

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